結論から言うと、私たちが「おいしい」と感じる塩分濃度は一般に0.8~0.9%と言われています。
これは、私たちの体液と同じ塩分濃度で、脳が本能的に「おいしい!」と感じるようになっているから。
じゃあ、お吸い物や肉料理、野菜なんかの全てに0.8~0.9%の塩をふっときゃプロの料理のようになるか?というと、そうではありません。
日本料理で「包丁十年、塩味十年」といわれるように、塩加減は非常に難しい技です。
なぜかというと、素材の塩分濃度やうま味量、調理方法、塩を入れるタイミングなんかによって塩の量は微妙に異なるから。
プロはその辺を手の感覚で調節しているんですね。
とはいえ、素人でも塩加減ができるようになるにはどうしたら良いのでしょうか?
せめて低温調理のメインとなる肉料理の塩加減について知りたい!
ってことで、今回は「お肉と塩の関係」について理論的な面を考えてみます。
お肉料理における塩の役割
そもそも肉料理における塩の役割は主に4つあります。
- 風味を豊かにする
- 臭みをとる
- うま味を引き出す
- 肉の余分な水分をとる
最初の3つは、なんとなく理解できるかと思います。
が、実は肉の余分な水分を出すというのもお肉をジューシーにする秘訣だったりします。
肉の水分が保持された状態がおいしいわけじゃない!
調理温度の記事なんかで今までさんざん「お肉の水分が保持されればジューシーになる!」みたいなこと言ってたのになんで?
と思われるかもしれません。
以前紹介した『Modernist Cuisine』という本にも以下のように書いてあります。
真空調理したステーキは肉に含まれる水分をわずか3~5%しか失わない。
出典元:『Modernist Cuisine』p.186)
さもお肉の水分量は多ければいいみたいに思っちゃいますね。
が、日本の熟成肉の火付け役となったステーキハウス「カルネヤサノマンズ」オーナー高山いさ巳さんによると
昨今は『肉の持つ水分量が42%という値が一番美味しさを感じられる』と言われています。市販のオージービーフは、水分量が50~60%ほどなので、この水分量を調節するために塩を振って水分を出すことで、理想の水分量に近づけるんです。逆に黒毛和牛は、牛を育てながら熟成させているので、水分量も完璧に計算しつくしています。(中略)そのような肉に塩を振って水分を出してしまうと、旨味の結合水まで出て行ってしまうんです。
出典元:雑誌『#肉部』エイ出版編集部 p.44
と述べています。
つまり、
- 水分量を42%になるように塩加減する
- お肉の元々の水分量やうま味なんかも考慮に入れる
ということがポイントになります。
ベストな塩分濃度は0.9~1.3%
じゃあ、ベストな塩分濃度は?ってところに話を戻しますが
0.9~1.3%とけっこう幅があるようです。
(お肉100gに対して塩0.9~1.3gってこと)
このふり幅はお肉のうま味によるもの。
美味しいお肉に塩を振り過ぎると水分とともにうま味が流れ出てしまいます。
一方で、スーパーなんかで買う安価なお肉の場合は、しっかり塩をしておかないと臭みや余分な水分が残るというわけです。
つまり、ポイントとしては
安い肉は濃いめ、高級肉は薄めの塩分濃度を意識することです。
ただし、鶏むね肉は例外。
というのも、鶏肉は水分量が多く、味も淡白。
高山さんは焼いたりする場合は、鶏肉にはゲランドの塩などの辛めの塩を振ったり、塩水に1日漬け込む方法をおすすめしています。
ベストな塩のタイミングとは?
安い肉は濃いめ、高級肉は薄めの塩分濃度がベストだということが分かりましたが、
塩をするタイミングも同じように良い肉かどうかで分けられます。
安い肉ほどかなり前から塩をしておきしっかりと塩を浸透させ、余分な水分や臭みを取っておくのがポイント。
一方で、高山さんがいうように高級肉なんかはうま味も多く水分量がコントロールされているので、加熱する直前や食べる直前に塩をするのがベストということになります。
塩の浸透時間はこちらの記事でも紹介していますが、
『フランス式おいしい肉の教科書』によると最長で2日~最短で1時間必要です。
つまり、まとめるとこの通り。
- 安い肉は加熱の大分前に塩をふっておく!
- 高級な肉は加熱の直前 or 食べる直前に塩をする!
ってことになります。
まとめ
いかがだったでしょうか?
まとめると、この通り。
- ベストな塩分濃度は0.9~1.3%
- 安い肉は濃いめ、高級肉は薄めの塩分を意識する
- 安い肉は加熱のかなり前、高級肉は食べる直前に塩をふる
塩加減って本当難しいんですね。
でも、鶏むね肉を低温調理していて「0.9%の塩じゃなんか味気ないな…」と日ごろもやもやしていたので、高山さんの取材記事には「なるほどー!どれも全部0.9%にしたらいいわけじゃないんだー」とちょっとすっきりしました。
みなさんも是非、お肉の水分量やうま味なんかを意識して調理してみてください♪
肉と塩の関係についてもっと知りたい方はこちらをどうぞ。
参考文献
- 雑誌『#肉部』エイ出版社編集部
- 『Modernist Cuisine at Home現代料理のすべて』Nathan Myhrvold,Maxime Bilet
- 『フランス式おいしい肉の教科書』Arthur le Caisne
Modernist Cuisine at Home 現代料理のすべて