お肉を美味しく調理するといっても、部位ごとに最適な調理温度や時間はちがってくるというのをご存知でしょうか?
例えば、牛や豚ヒレ肉、鶏むね肉なんかはやわらかいお肉なので、なるべく低い温度(56~65℃)で調理します。
一方で、豚バラ肉やもも肉、牛のショートリブなんかの固めのお肉は調理が難しくなります。
中途半端に低温調理するとゴムのような食感になり、かといって高温調理するとパサついたお肉になりやすい。
そのため、部位によって変わりますが60℃~80℃の低温で3~100時間とじっくり加熱する必要があります。
100時間って3日以上?!
って感じですが、この差は一体何なのでしょうか?
なぜ固いお肉は長時間加熱が必要なのでしょうか?
今回は『Cooking for Geeks』の内容を元に「お肉の食感に大きく関係するタンパク質について」ご説明します。
本はこちら。
お肉の部位ごとの調理時間と温度を知りたい方はこちらで表にまとめてます。
そもそも硬いお肉になるのはなぜ?
お肉の調理にはざっくりと分けて3つのタンパク質が大きく関係しています。
- ミオシン
- アクチン
- コラーゲン
そもそもお肉が噛み切れないほど硬くなるのは、これらのタンパク質が複雑に絡み合うせいです。
というのも、基本的にお肉に熱を加えるとタンパク質は変性し、ひも状になっている分子たちがゆるんでほどけてきます。
が、別のタンパク質に触れると、新たに結びついちゃいます。
そうやって、いくつも結びつき、複雑に絡み合うことで硬いお肉になります。
ですが、それぞれのタンパク質の変性温度は違うので、それぞれが結びつかない温度で調理すればジューシーなお肉に仕上がります。
ミオシンとアクチンは以下のとおり(pHにもよる)。
- ミオシン:50〜60℃
- アクチン:66〜73℃
これを利用して、ミオシンがアクチンと結びつかなければ良いわけです。
ミオシンは変性しちゃってるけど、アクチンは変性してない温度帯。
つまり、理論的には50~65℃。
食中毒菌が発生しやすい温度帯を避けると、56~65℃で調理すれば、タンパク質が複雑に絡み合うことなく美味しいお肉になる!ということなんです。
鶏むね肉やヒレ肉のようなやわらかい部位であれば、この温度で調理すればOKです。
もともと硬いお肉はどうすればいい?
ただ、ここで問題になるのは3つ目のタンパク質である「コラーゲン」。
これは、動物がよく動かしたり体を支えたりする部位、モモ肉だとかバラ肉なんかに多くあります。
筋肉が発達している部位ということは元々硬いわけで
それを美味しく調理するには、
- 薄切りにして繊維を断ち、高温で短時間加熱する(生姜焼きなんかがそう)
- 低温でコラーゲンがゼラチン状になるまでじっくり長時間加熱する
の2通りしかありません。
ここで覚えておいていただきたいのは、コラーゲンの2つの特徴です。
- 他のタンパク質よりも反応が遅い
- 熱を加え続けると2段階に変化する
56~65℃の調理では、コラーゲンはミオシンよりも反応が悪いので数時間の調理では変性しません。
また、コラーゲンは2段階に変性するので、長時間調理するといっても中途半端に変性させるとゴム状の食感になります。
2段階とは具体的にどう変化していくかというと、
最初未変性の段階では、コラーゲンの分子は3本のひもがロープのように編まれたような状態になって絡まっています。
そこに熱を加えると、1段階では一部はゆるむけど一部がつながったままという状態になります。
この状態がゴムのような食感を生みます。
でも、さらに変性が進むと分子のひもが切り刻まれてバラバラの状態になります(加水分解)。
すると、構造がなくなるだけでなく、コラーゲンの一部が周りの液体に溶けてゼラチン化し、最高の食感を生み出すというわけです。
ちょっとややこしいですが、なんとなく伝わるでしょうか。
つまり、硬いお肉の調理はアクチンをなるべく変性させないまま長時間かけてコラーゲンをゼラチンになるまで変性させるのがベスト!ということになります。
コラーゲンの分子がバラバラになれば、ミオシンと絡まることもないですからね。
まとめ
以上をざっくりまとめると
- やわらかいお肉は56~65℃の低温調理で美味しくなる!
- 硬めのお肉は低温でゼラチン状になるまで長時間加熱がいる!
ってなことです。
これさえ頭においておけば、硬いお肉かやわらかい部位かによって目安にする温度と調理時間が何となく分かってくるでしょう。
ただ、ここまで難しく説明してきましたが
正直言うと最近の研究では、「低温調理によってお肉が美味しくなるというよりも、熱がゆっくりと加わることでお肉が美味しくなるのでは?」と言われています。
あれ?じゃあ、今まで言ってた細かい温度はあまり関係ないの?
って感じですよね。
確かに、『Cooking for Geeks』も『Modernist Cuisine』も5年以上前の情報はもうそれほど新しいとは言えません。
研究によってどんどん新しい情報に変わっていくものです。
とはいえ、まだあいまいな情報なので
今後また新しいことが分かったらお伝えしていきたいと思います。