「小さいときから英語を学び始めた方がいい」という話、よく聞きませんか?
近年、早いうちに英語を学んでおくべきだった!という経験から、自分の子どもに英語を学ばせる親が増えてきました。
私も大学では英語を専攻していたので、「子どものころに海外に住んでいた」とか「5年間留学した」とか聞くと、今でもものすごい嫉妬します(笑)
でも、実際のところ
言語習得はそれほど単純なものではありません。
また少しずつご紹介していきたいと思いますが、早期英語学習は方法や環境によっても逆効果になってしまうことがあります。
今回は、『はじめての第二言語習得論講義』の本に
早期英語学習のために英語の動画やCDを赤ちゃんに1日中聞かせても意味がなさそう・・・!という内容の研究が面白かったのでご紹介します。
生後9ヶ月のアメリカの赤ちゃんに中国語を聞かせた実験
1つ目は、脳科学者のパトリシア・クールらが行った実験。
彼女の名前で検索すると動画で見れますが、英語以外聞いたことのない生後9ヶ月の赤ちゃんを対象に3つのグループに分け、比較しました。
- 中国語を母語とする女性に赤ちゃんの目の前で本を読み聞かせたグループ
- 赤ちゃんに同じ中国人女性が中国語を話す映像を見せたグループ
- 2のように映像は見せず、音声だけを聞かせたグループ
合計12回のセッションを行いテストした結果、どうなったかというと
なんと、実際に目の前でコミュニケーションをした1のグループの赤ちゃんだけが中国語を聞き分けるようになっていました。
耳の不自由な両親のもとに生まれた子どもの言語習得
もう1つの研究は、発達心理学者のジャクリン・サックスたちが、耳の不自由な両親のもとに生まれた子について行ったもの(Sachs, Bard, & Johnson, 1981)。
彼はジム君といい、主にお母さんに育てられました。
どんな感じで育ったかというと、彼は弟とよくテレビを観ていたそう。まぁ耳が聞こえるからテレビの会話を聞きながら普通に言葉を話すようになるだろう、とお母さんは考えたようです。だから、言葉ではもちろん、手話で話しかけることもしなかったそう。
が、ジム君はほとんど言葉を話せるようになりませんでした。
普通は1歳前後で最初の言葉を発し、2歳ごろから3つの単語をつなげた文を発するようになります。でも、初めて単語を発するようになったのは2歳半ごろで、それもほとんどテレビのCMに出てくる商品名などの言葉だったんだとか。
その後ジム君がどうなったか心配ですよね・・・。
でも、大丈夫。ジム君は3歳9ヶ月で言語療育を受けることができ、9歳くらいには他の子と同じように話せるようになったそうです。
良かった良かった!
言語習得にはコミュニケーションが大事!
2つ目の研究は母語についての研究でしたが、1つ目の研究と合わせて考えると
母語でも第二言語でも、コミュニケーションって大事なんだなー!ということを教えてくれます。
これを見ると、早期英語学習をするなら、英語の動画とかCDとかを聞かせるだけでは意味がないと言えます。ジム君のようにいくつか単語を覚えたとしても、「言語を使う」というレベルには達しないでしょう。
もしやるとしても、流暢な英語で話しかけてみるか、英会話教室などコミュニケーションありきの学習方法を選ぶくらいでしょうか。
でも『はじめての第二言語習得論講義』の著者は、別の章で
You can take a horse to water but you can’t make him drink.
(馬を水飲み場まで連れて行くことはできるが、無理やりに飲ませることはできない。)
という格言とともに、以下のように書いています。
親が子どもに勉強を強制すると、確かに一時的には勉強を始めるかもしれませんが、しばらくすると勉強を放り出して遊び始めてしまうかもしれません。長期的な視点に立つと、外部からの強制力だけでうまくいくことはあまりなく、本人が学習する意味を見いだし、やる気が内側から湧き出てくることが大切です。
出典:『はじめての第二言語習得論』第8章
赤ちゃんのうちから学ばせるなら関係あるか分かりませんが、
物心のついた子どもであれば、英語を学ばせたくても無理やりでは逆効果になってしまった例もあります。親にできることといっても、興味を持ってもらいやすい環境を整える程度にするくらいなんですかね。
これについては、今も議論されていてはっきりと分かっていません。
でも、「何歳までに学んだ方がいいのか?」「大人で英語を学ぶには遅すぎるの?」
といった疑問を解決してくれそうな研究もあるのでまたご紹介していきます。